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見えなくなったら、希望が見えた / 穴澤雄介
ウサギとカメにもなれないひとには「道を外してみる」とか、自分の枠組みをはずしてみるとか(要約するよりも前後のストーリーを通して読んだ方がいい)、ちまたの自己啓発本がいまひとつはいってこない方にはとてもよい本だと思う。「盲目の音楽家の感動話本」的キャッチでセールスされていたら、僭越ながら非常にもったいないと思う。わたしには咀嚼できるたしかさ、みたいなものがあった。
「正論で飯は食えない」を読んだとき、わたしは著者を信頼した。
ヘタウマな愛 / 蛭子能収
夢を追ったりギャンブル全負けしたり、次々にしごとを変えるようなひとをすべてひきうけるって、ものすごいことだ。そんな奥さんを亡くした蛭子さんのさびしさがほとばしる一冊。夫婦のかたちって、それぞれにちがうものなんだな。みなにものがたりがあり、歴史があり、空気があり。自分は一生もちえないものであるだけに、うらやましくもあった。
婚活をし続けて、ふたたび大切なひとにたどりついた蛭子さんの行動力に、さみしさパワーの破壊力を痛感した。なんか、よかったな。
不適切な日本語 / 梶原しげる
日本語は「場」をとても重んじる言葉なのだなあ。つねづね「元気をもらう」「やってもらえます?」「こだわりの~」「~したくないですか?」「大丈夫です」という言葉に抱いていた違和感が、梶原さんのおかげでそのもやもやが輪郭を帯びてすっきりした。
一日何回も耳にする「扉が閉まります」気にもとめていなかったけど、よく考えたら変だ。アナウンス側が「閉めますよ」ってことなのに、ドア開閉を自ら突き放してひとごと的である。あれは押し付けがましくなくするためにそうしてるのだなー。で、大阪モノレールはすごい。「閉まります」=「閉める」の自動詞から、「閉めます」=「閉める」の他動詞に替えたことで強制力を持たせ、「定期運行の夢がかなった!(らしい)」そうだ。経済効率にも大きく影響するとは、改めて驚いた次第。
クローズアップ現代の国谷キャスターが使わなかった言葉は興味深い。「脱・よろしく」への道は険しい。
天皇への道 / 吉田伸弥
著者は元読売新聞記者。今生天皇がお生まれになってから天皇となるまで、よくお調べになったなぁ。ご両親からひとり離れた当時の明仁親王をご教育なさるにあたっては、侍従長や傳育官をはじめ、周りの方々が本当によくよく考えながら迷いながらなさっていたのだな。読み進めながら、僭越ながら親戚の叔母のような感覚を持った。ときにほほえましく、ときに胸が詰まったり(こっそり坊主にするところとか)、日本にただお一人だけの成長譚。ドキュメンタリーっぽい。
戦争前後のご様子を読むと、学生さんという若さでいらしたのに、ご覚悟をなさっていらしたんだと深く感じ入った。高淳皇后のことはあまりよく知らなかったけれど、親王へのお手紙のくだりでは、やはりひとりの母親なのだと思ったし、昭和天皇をお支えになったすごい方だったのだと知った。
学生時代、ご学友のかたと3人でこっそり銀座へ遊びに行ったお話は、それでこそともだちじゃーん!って楽しかった。学生時代の思い出って年とともに輝きを増してくるっていうか、思い出ランキングのトップに君臨し続けるもの。今生天皇もたくさんお持ちなのだなと、うれしかったな。
あー書ききれない。要は、ますます今生天皇がだいすきに。
ひとりよがりのものさし / 坂田和実
以前「芸術新潮」で連載していたものが本になり、連載時と同じくわははと笑って読んだ。著者はご商売のかたなので、豊富な知識に裏打ちされた文だけど、あっちへ行ったりこっちへ揺れたりと小市民的(ゴメンナサイ)な感じがとてもたのしい。ド素人な私は、やっぱ自分がすきだと思えるものがいちばんいいよねーなんて結論。
で。気になったのはやっぱり聖具。神父様のローブに使用される刺繍であるとかロシアのイコン、エチオピアの聖書なんておおおおと感激した。詳しいことはわかんないけど、ものがたりのあるもの、が好きなのだろう。殊に当時のひとびとの祈りの象徴とされてきたものについて。
ちょっとびっくりしたのはぶどう棚の針金。子供のころからそれに囲まれて育ってきたため「へ?あれが??」と驚愕するも、無地の壁にかけられたそれは立派な民芸品であった。いまから40年前、父がブドウ農家の視察でフランスへいったとき、たくさん写真を撮ってきたのであるが、なぜか引き伸ばして部屋に飾ったのは、畑のかたわらに置いてあったドラム缶の写真であった。上半分をくり抜き、剪定した枝を燃やすものだ。私の地元では畑に穴を掘って火をつけて埋め、炭化したそれを掘りごたつの火種として使っていた。それをドラム缶でやってんのかーくらいにしか思ってなかったけど、昔から油絵を描いていた父の琴線に、それが触れたのだろう。民芸品って生活のなかに生きているもんなんだな。使ってこそ美しい、みたいな。
五里霧中
これからのこととか、神様のこととか、いろんなことを考えると絶望的なきもちになり、行きつく先は「生きていて申し訳ありません」という想いだ。かといって消える勇気もない私はこれからどうしてゆけばよいのか。できるだけ、せめて、できるだけ今世で蒔いた種はできるだけ刈り取っておき、できるだけ来世へ宿題を残さないようにしたい。
不遜は承知だが、訃報欄に載る年配者がうらやましい。私も早く今世のおつとめを終えたい。くるしくなると、そんなことを思ってしまう。数年前の地獄を思えば、元気で働けるからだがあり、大切なともだちがいて、夜も眠れるし食欲もあるなんて夢のようなのに。でもクリアすればまた別の壁がやって来、永遠に終わりがないような気がしてしまう。
でもそれも、抜け出せるのは自分しかなく、あるところでえいやっとテコ入れしなければならないのだろう。先を読めというけれど、目先でせいいっぱいだ。神様、わたしは希望というものがほしいです。
ことばのともしび / 末盛千枝子
昔からクリスチャンの方の本を読むと、こころがしんとして「自分が帰ってきた」ような気がする。こちらのご本もそうだった。すえもりブックスはきいたことがあるけれど、末盛さんご自身についてはあまりよく存じ上げていなかった。つぎつぎと押し寄せてくる艱難辛苦を、厚くあたたかい信仰で乗り越えていらっしゃるご様子に、とても胸をうたれた。とはいえ文字のその奥にある想いはいかばかりか。ときには神に「なぜ」と問いかけるときもあったのだろう。それでも乗り越えていこうと何度も立ち上がっていらっしゃったのは、ひとえに純粋な神への愛に尽きるのだろう。
こころをこめて生活することは、すべての場所が教会となる。
天皇家の執事 侍従長の十年半 / 渡邉允
平野レミのつぶやきごはん / 平野レミ
自分でがしがしアレンジしたりしてレシピそのものを作れるひとって、ほんとうにすごいと思う。私はその能力が皆無のため、ともだちから料理上手だねなんて言われると、ものすごく罪悪感を感じる。すみません、歴代の彼氏さま。
で、レミさんが大好きである。140字以内でもちゃんとおいしく、すぐできるものばかり。いまどハマりしているのは豆サラダ。いつもカイワレを買い忘れるので、冷凍にんじん・ピーマンを混ぜ、ドライおからを入れてお弁当仕様にしてみてて。図書館で借りるのでなく、ちゃんと買わねば。
イナカ川柳 / TV Bros編集部編
ひたすら笑った。
「カブトムシ 奴らの方から うちにくる」
「小洒落てる パン屋はなぜか すまし顔」
山梨出身の私としては
「ほーけーと 相づち打ってる おじいちゃん」に泣いた。
40歳から進化する心と体 / 工藤公康,白澤卓二
長く現役選手でいらした工藤さんがからだはもちろん、食事睡眠をしっかり管理なさっていたことは存じ上げていたけれど、からだの疲れは実は内臓の疲れであったと早くから気づいてファスティングなさっていたとは知らなかった。巷には「食事を抜くのはよくない」なんて説もあったりするけれど、実体験に基づくお話だから、非常に説得力があった。
白澤先生はアンチエイジング分野でよくお見かけするだけあって、非常にきっちりかっちり自己管理なさっていて、さすがでした。
が、読んでいたら、果たして自分は長生きしてどうするんだろうとも思った。独身は基本仕事がなかったら暇な人生。何かに打ち込むものがある方はよいけれど、それもない自分は果たしてどうしていくのだろうと、全然関係ないところでぞっとした。
探検! 東京国立博物館 / 藤森照信×山口晃
いちにちで見切れない!くらいのトーハク。年間パスポートを買おうか迷っていたけど、これは買わねばなるまい。本館の便殿や黒田記念館外壁のスクラッチタイル、素晴らしい灰被天目や家型埴輪、もう見どころ満載すぎ。山口さんのイラストが喜びに油を注いでくれ、全館のソファを試さねばと決意させる。まずは「人がいない!」東洋館からリベンジせねばなるまい。