杉原つやの

本と散歩とアートとか。

ひとりよがりのものさし / 坂田和実

 

ひとりよがりのものさし

ひとりよがりのものさし

 

 以前「芸術新潮」で連載していたものが本になり、連載時と同じくわははと笑って読んだ。著者はご商売のかたなので、豊富な知識に裏打ちされた文だけど、あっちへ行ったりこっちへ揺れたりと小市民的(ゴメンナサイ)な感じがとてもたのしい。ド素人な私は、やっぱ自分がすきだと思えるものがいちばんいいよねーなんて結論。

で。気になったのはやっぱり聖具。神父様のローブに使用される刺繍であるとかロシアのイコン、エチオピアの聖書なんておおおおと感激した。詳しいことはわかんないけど、ものがたりのあるもの、が好きなのだろう。殊に当時のひとびとの祈りの象徴とされてきたものについて。

ちょっとびっくりしたのはぶどう棚の針金。子供のころからそれに囲まれて育ってきたため「へ?あれが??」と驚愕するも、無地の壁にかけられたそれは立派な民芸品であった。いまから40年前、父がブドウ農家の視察でフランスへいったとき、たくさん写真を撮ってきたのであるが、なぜか引き伸ばして部屋に飾ったのは、畑のかたわらに置いてあったドラム缶の写真であった。上半分をくり抜き、剪定した枝を燃やすものだ。私の地元では畑に穴を掘って火をつけて埋め、炭化したそれを掘りごたつの火種として使っていた。それをドラム缶でやってんのかーくらいにしか思ってなかったけど、昔から油絵を描いていた父の琴線に、それが触れたのだろう。民芸品って生活のなかに生きているもんなんだな。使ってこそ美しい、みたいな。